突然ですが、今私は港にいます。

 港といっても、今は使われていません。
 人っ子1人いません。

 別に海を眺めている訳ではなく、船に積み込む荷物を保管しておく倉庫みたいな所で両手両足を縛られているんです。

 ええ、遊んでいる訳でもないです。
 私の後ろには 学校に潜入してきた男・シキミと、私の知らない女の人。
 多分味方ではないんだと思う。

 そしてザコっぽい男達が広い倉庫内に50人くらい。


 ………そう、私は攫われちゃったんです。






stigmata・09
港ですか。
〜heraldry〜






 その日の放課後、私はいつもの通り歩いて下校していた。
 いつもの通りって言っても午前中で日課は終わったから昼頃で、時間的に早かったんだけど。

 友達の誘いも断ったし、家でゆっくりしようと思ったところ、目の前にシキミが現われた。
 驚いて逃げようとしたものの、エドといい戦いするような人から運動神経ちぎれてるような私が逃げ切れる訳もなく、当て身をくらわされて一発で落ちた。

 で、気が付いたら両手両足縛られて港に運び込まれるところだった訳。
 だからかろうじてここが港だって事は分かってるんだけど、この情況はどうしたものか。

 しかしなぜに私が攫われる?
 3人をおびき出して戦おうとでもいうのか。

「……あの………」
 聞こうとして言い掛けたが、シキミに睨まれた。
 こ、恐い………。

「な、何でもないです………」
 よく見れば顔は整ってるし銀髪は綺麗だし、シキミって意外と美形なんだけど怖い。

「だめじゃない、怯えさせちゃ。可哀相だわ」
 女の人がシキミに言い、
「よく言うな」
 シキミが無表情で応じた。

 もしかしてこの女の人ってわりといい人?
 いや、敵なんだからいい人な訳がないけど少なくともシキミよりは話の分かる人なのではなかろうか。

「あの……」
「何?」
 かがんで私の顔を覗き込む女の人。
 それと同時に長い金髪がさらりと滑る。

 お、やっぱり聞いてくれそうだ。

「なぜ私を攫ったりなんか……?」
「あなたが『あれ』を持ってるからよ」
「…『あれ』?」
 覚えのない単語に、思わず首を傾げる。

「あなた何も聞いてないの?」
「………何をでしょう?」
「……………」

 何さ、本当に何も知らないんだから仕方ないでしょう。
 『あれ』って何なのさ。
 私は敵が狙うようなブツは持ってませんぜ?

「シキミ、本当にこの子なの?」
「間違いない」

 何がだ。
 訳分かんねぇ。

「あの、何のことでしょう………?」
「……呪いの刻印よ」
「え………?」
「本当に知らないのね。いいわ、教えてあげましょう」


***


 女の人は、要点をまとめて教えてくれた。

 つまり私にはお父さんから受け継いだ呪いの印がついているらしい。
 呪いとは、やはり人が怨みやら何やらでかけるものに違いないのだという。

 それはお父さんがハガレン世界にいた時友達の呪印を解こうとして失敗し、自分についてしまったものなのだとか。

 そしてそれは、莫大なエネルギーを持っている。
 だからそれを利用して向こうの世界で軍を制圧しようとしているらしい。

 向こうの世界は相当な軍事国家である。
 何しろ警察がやるようなことさえ軍がやっているのだから。
 それを制圧するとどうなるか、それは容易に想像がつく。

 ほぼ国内全面支配できるだろう。
 ていうかそんな凄い印が私に?


「体のどこかに呪印があるはずなんだけど、どこにあるか教えてくれる?」
 うーん、呪印っていっても何のこっちゃら……………

 ………あ。

 私は体の一部についていた、ある模様を思い出した。
 もしかしてあれかなぁ?

 かなり昔っていうか生まれたときからあるような気がするんだけど、イレズミかと思ってた。

 でもあんな場所にあるしなぁ。
 ていうか敵に見せてどうすんだ。
 私は首を左右に振る。

「………あなた、自分がどういう状況下にいるか分かってる?」
 黒い笑みを私に向けて、銀色に光るナイフの刃先が喉元にあてられた。

「言いなさい」

 い、言わなきゃ殺される。
 さっきの「女の人はいい人?案」撤回。
 もしかするとシキミより怖いのかも。

「あの………そのっ……」
 言いたいけど、言ったらその場所確認されそうで嫌………。

「どこ?」
「……えっと………ひ、左胸に………。」
 更に(笑顔で)凄まれて、遂に言ってしまった。
 で、その上に

「見せて」

 ぬあああぁやっぱりそうきた!!!
 周り男ばっかだっていうのに!!!

 反論しようとしたが、その前に制服のスナップ外されてました。
 ていうか反論しても有無を言わさず脱がされるんだろーけど。

「これね」
 上半身下着丸見え状態な私の胸を見ながら言う金髪ねーちゃん。
 ううぅ、死ぬほど恥ずかしい………。

 腕を縛られてるから完全に脱がされてないのがせめてもの救いか。
 元のように制服のボタンをとめられ、ようやく一安心。

「……シキミ、転送の時間はまだなの?」
「ああ。まだ20分程あるな」
「遅いわね………。向こうとの時間の流れが違いすぎるからかしら」

「あの、どういうことでしょう……?」
 私は少々控えめに尋ねた。

 転送?
 なんじゃそりゃ。

「向こうの人が錬金術で私達を転送する事になってるのよ。私達はそんな術使えないから。向こうとこっちでは時間の流れ方が違うようだからタイミングが合わないの」

 なるほど。
 向こうの世界からこいつらを錬金術で取り寄せするわけか。
 で、取り寄せされる時間を待っているわけね。

 あぁ、この地面に描かれたドでかい錬成陣は転送される人が入るのか。
 私も入ってるみたいだけど……。

 …って、もしかしてこのままここにいたら一緒に転送されて向こうの世界に行ってしまうのでは?

 行けるのは嬉しいんだけど、行ったら最後敵地のど真ん中に着きそうで怖い。
 しかも呪印の力を利用して軍を制圧するってんだから、尚嫌。
 だってホークアイ様やらハボさんがいるのに!!!

 マズい。
 何とかして逃げないと。

 しかしこいつらから逃げられるのか。
 ていうかその前に縛られてるっつの。

 よし、こうなったら………


『ピッ、プルルル………』


「何だ?」
「何の音?」

 どうやら何の音かは分からないらしい。
 向こうの世界にないからなぁ。

 こそこそやってても仕方ない。
 堂々とかけちゃおうじゃありませんか、携帯。
 縛られたままポケットから出すのは大変だった。

 一瞬でいい。
 繋がってさえくれれば………

『もしもし、です』
 あ、大佐の声。

 だなんて、もう新婚さんみたいv

 ……じゃなくて。
 早く言わなきゃ…………………

「こいつ、通信機なんか持ってやがった!!」
 言うと同時に、シキミが右足を上げ、携帯に向かって振り下ろす。
 そして私は携帯がシキミによって踏み壊される直前、思いきり叫んだ。


「豆ぇーっ!!!!!」


 そりゃもう、自分の鼓膜すら破れるかと思うほど大きな声で。

「な、何なの………?」
 叫んだ内容の意図が理解できなかった様で、眉をひそめる金髪ねーちゃん。

 あー、エドに聞こえてたらいいんだけど。
 その場にいなかったら聞こえてないよね。
 大丈夫かな………。

 ………と。


『ドドドドドド………』


「な、何だ!?」
 男達がどよめく。

『バンッ!!!!!』
「おんどりゃあ!!!誰がウルトラスーパーハイパー豆粒ドチビかああぁ!!!」

 おお、来た来た。
 ドアを蹴破って飛び込んできたのは、エドだった。

「オイコラアアアアァ」
 目をギラリと光らせ、私を睨むエド。
 ちょっと待て、この光景に気付け。

「ちょっとエド、まず先に助けてよ」
「助………?あ。
 ようやく気付いたか。

「な、なぜここが分かった!?」
 ザコsの中の1人が叫ぶ。

「カン!!!」
 エドがすっぱりと答えた。

 いや、エド。
 そんなどっかの某ゴム人間みたいな答え方しなくても………。

 それにしても私が豆って言ってから3秒も経ってないんですけど、一体どんな速さで走ってきたのか。

!今助けるぞ!!」

『パンッ!』
 両手を合わせて、オートメイルを刃に変化させた。
 襲い来るザコどもを薙ぎ払いながら駆けてくる。
 が、

『キィン!!』
 あと3メートルくらいで着く、という時に エドはその足を止めた。

「初めまして、鋼の錬金術師さん。私はエルト。よろしく」
 金髪ねーちゃんが、刃渡り15cmくらいのナイフでエドのオートメイルの刃を受け止めていた。
 ……金髪ねーちゃん、エルトっていうのか。

「呑気に自己紹介なんかしてんなよっ!!」
「ふふ、まさかこんな子供だとはね」
「うるせぇっ!!」
 微笑し、エドの攻撃を軽くいなす。

「………あなたはこの子を“死神”だと知って助けるのかしら?」
エルトは、私に視線を向けて言った。


『ドクン。』


 私の心臓が、大きく跳ねた。


「死神………?」
 エドは眉を顰めた。

「そう。この子……『 』についている呪印は周りの者の命を消費しながら今も尚その効力を保っている」


「どういうことだ……?」
 扉の方から声がした。
 大佐だった。

「マスタング大佐ね。あなたもお聞きになる?」
「………」
 沈黙を肯定とみなし、口を開くエルト。

「この子の父親は『レイム・ディムスト』。国家錬金術師だった人。
そしてその友人は『クスカ・コルムネア』で、連続殺人犯の子孫。クスカの父親である連続殺人犯は、殺人を快楽に思う性格の持主で、誰でも見境無く殺していた。そうでしょう?大佐さん」
「………ああ」

「大佐知ってんのか?」
 エドワードがロイを振り返る。
「その事件を調査していたのは私だからな」

「そしてその連続殺人犯はある人物を殺す直前に『呪い』をかけられた。
その呪いは、かかったものにとって大切な人物の命を、一年に1人の周期で吸う。
……吸われた者は、勿論死ぬ訳だけど。

その呪印の厄介な所は、子供が生まれた瞬間その子供に呪印が移って末代まで効力が保たれるということ。そしてクスカもそれを受け継いでしまっていた」

「それとと何の関係があるんだよ!」
「……その呪印がその子にある、と言ったら?」
「!!」

「その子…の父親であるレイムは、どうにかして友であるクスカの呪いをといてやりたかったのね。自分の兄と共に研究をしていたの。

でもそれが失敗して、自分に呪印が移ってしまった。
そして子孫に継承された呪印は今や、こちらの世界でレイムの子孫として残されたその子に。
私達はその呪印の莫大なエネルギーに用があるのよ」


「……1つ、聞いてもいいかね?」
「何?」

「投げられたナイフが軌道を変えて心臓に向かうということは呪印と何か関係が?」
「ええ。元々呪いだし、殺す手伝いもするでしょうね」
 そして、エルトはこう付け加えた。


「この子にとってあなた達が大切な人物になってしまったらいつか命を落とすことになる。
……それを知ってもあなた達はこの子を助けるの?この、死神を」



 死神。

 それは私の母が私に残した言葉。
 母が死ぬ前に私に残した、私の呼称。
 愛する人を奪った者に対しての、憎しみの言葉。



「当然だろ!そんなので怖がってたら俺ら今頃生きてねーっつの」
「同感だ」

 エド達が言ったことは、耳に入らなかった。
 それよりも、私は怖かった。

 このままエド達が私といたら、エド達は死んでしまうのだろうか。
 今までと、同じように。
 私の家族と、同じように。


 エド達には嘘をついていた。
 祖父も祖母も、私の近くにいたから死んだのだ。

 当時は呪印のことなど知らなかったが、遠く離れた場所に住んでいる叔父や叔母が死なないのが、私のせいで死んでいることの何よりの証拠だった。

 全てを失ってまで誰かの温もりを得るくらいなら、いっその事孤独がいい。
 そう決めたはずなのに、私はまた失うことを繰り返そうとしている。


を返せ!!」
 エドや大佐が、エルトと戦っている。
 私を取り戻すために。

「……めて……やめてっ…!!私なんか取り戻してあなた達が死んじゃったらどうするの!!
私はもう…どうなったっていいから……っ」

 誰が死ぬのも、見たくない。
 まして私のせいでなんて。

「バカ!!死ぬって決まった訳じゃねえだろ!」
「私は君が連れていかれるほうが嫌だ」

 違う………違うの。
 私は確かにあなた達が死ぬことは嫌。
 だけどそれ以上に私は……………


『キュイイ……ン』
 地面に描かれた錬成陣が、淡く光を帯びる。

「ようやくお迎えが来たようね」
「何っ!?」
「向こうの世界にワープするのよ」

 あ、私錬成陣の中に入ったままだ。
 ……向こうの世界で何されるのかな。

 まぁ、いざとなったら首を吊るなり何なりして死ねば力を利用されることはないよね。
―――――と。

「そうはさせない」
 急に、自分の体が浮いた。
 ……大佐が抱きかかえているのだった。

 急いで錬成陣から出ようとするものの、シキミが前方に立ち塞がってそれは困難なものとなった。
 ……筈だった。

 何やらエルトがアイコンタクトを送り、シキミは横に退いた。

 大佐は私を抱えたまま錬成陣から出、その直後に錬成陣から閃光が溢れた。
 そして光がおさまった頃には、敵は全員いなくなっていた。

「大丈夫か?」
 エドが、私の手足に巻かれたロープをオートメイルの刃で切り落とした。

「……うん」
 殆ど虚ろに返事をし、地面に立つ。

「……………何で私を助けたの?」
 疑問に思っていたことを、どちらにともなく呟く。

「ばっかだな、向こうに渡したらが危険な目にあうだろ?」
「………そっか」


 でも。
 ……でも、私はなぜか全く納得ができなかった。

 何でだろう。
 私はまだ、誰かを信じることを怖がっているのかもしれない。
 あの時の記憶がまだ、鮮明に残っているから。


君、帰ろう」
「……はい」

 そして私達は、家路についた。


















「どういうことだ?あのままいったら連れて来られた筈だぞ」
 シキミは、エルトを睨み付け、言った。

「いいじゃない、ちょっと楽しんだって。どうせいつでも連れてこれるんだし」
「研究の方もあるだろう。そんなにしょっちゅうは行けない」

「だからよ。しばらく傍観に回りましょう。どうせ「あの方」のことだから私達が行けなくても他の人を送り込むでしょ。見てて飽きそうにないわ」
「………」


 2人は厚いドアの向こうへと入っていった。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

ご、ごめんなさい。意味不明すぎました。
オリジナルキャラとオリジナルストーリーがかなり混じりました。
元々オリジナル書きだったんで入れたくて・・・(コラ)

困った。いくらスランプしたからって。
この回、本当はもっとシリアス入れたかったのに。
私の文才の無さが如実に………。
もっとうまく書ければいいのに………。

そういえば新キャラがいっぱいでてきましたね。
金髪ねーちゃんもといエルトとか、
レイム(夢主の父)とか、
クスカ(レイムの友達)とか。
覚えきれませんね。(お前がな)

あぁ、もっと萌える内容にしたかった。
せっかくヒロインが攫われたんだから。(どういう意味だよ)

夢主の父がこっちの世界に来てから夢主が生まれるまで誰も死んでいなかったのは、父の2つ目の研究に関係があります。
某読めなかった研究内容です。
後に明かすことになりますね。

次回でさんの過去が明らかになる………のか?
では、ここらで第9話終了と致しましょう。

2005.2.2