全てを諦めたかように、動きを止めるエドワードとロイ。
切りかかる男との距離がぐんぐん近づく。
そして、
stigmata・07
忘れ物・後編
〜crisis〜
「………………なんちって。」
「へ?」
エドワードは、教室がある側とは反対の方の壁に手を置いた。
『ガラガラガラ』
戸が開く音がした。
実はそこ、壁ではなく戸だったりする。
別に錬成をしたわけではない。
もともとあった 渡り廊下の為の戸だった。
ちなみにその部分だけ廊下の幅が広くなっていて、戸は敵から見えにくい位置にあった。
「アッデュー!」
2人は戸を開けて渡り廊下へと出ていった。
あまりのことに呆然としていた男、ナイフを持ったまま固まっている。
……その時。
「誰だ!?」
男性教員が男達を発見した。
1人ナイフを持ったまま固まっているのを見て、その教員は急いで職員室に引き返していった。
その教員が110番を押したことは、もう少し後になって分かること。
『ピーンポーンパーンポーン♪』
お?何だろう。
授業中に放送とは。
私は、暗記のテストを何とか無事終了させ、プリントの問題を解いていた。
テストを受ける順番が早かったので残りの人が終わるのを待っているのだ。
ちなみに音読テストは隣の空き教室で1人ずつやっているため、先生は今ここにいない。
てか、プリントなんてめんどくさいので、やる気があまり起こらない。
時々 うちにいるハガレンキャラで妄想を繰り広げてはうふふと笑う時間を過ごしていた。
………しかし、そろそろ飽きてきた。
「あ〜あ、暇………。」
本来なら真面目にプリントをやっておかなければならないのだが、妄想の合間に解いている程度なのであまり進んでいない。
「なんかおもしろいことないのかなぁー」
そう言った次の瞬間。
『緊急放送、緊急放送!!第3校舎に不審者が入りました!全校生徒は各クラスにいる教員の指示に従って速やかに避難してください!!!』
……………………。
なんですと?
今何と?
ていうか、
「第3校舎って隣の校舎じゃん。」
しかも渡り廊下で繋がってたよね。
『ガラッ!!』
勢い良く開く教室の扉に、教室にいる皆は一瞬硬直した。
いや、入ってきたのは隣の教室にいた先生だったんだけれども。
ただでさえ不審者も入ったことすらなかったというのに、隣の校舎にいるというのではビクビクもするか。
ん?私?
私はここ数日変態とか女装とか見てきたんで慣れてきちゃいまして。
「全員急いでグラウンドに出ろ!!」
先生が皆に指示を出した。
「荷物は明日にでも取りに来れる!早く外に出ろ!!!」
あたふたしている生徒達に焦れた先生が、半ば怒ったような声で言った。
私はカバンの中に全て荷物をまとめてあったので、それを持って逃げることに。
だってさぁ、不審者が教室荒らしていって荷物がぼろぼろになったらどうするよ?
なるべく持って帰りたい。
で、急いで教室を出ました。
しかし廊下の混みの凄いこと凄いこと。
『押さない 駆けない 喋らない』はどうしたよ。
訓練全く意味ねーじゃん。
……………と。
「エドっ…………」
渡り廊下からこっちに向かっている大佐とエドの姿が見えちゃいました。
なぜにエドまでここにいるんだ!!
幸い、騒ぎで廊下にいる人は誰もその存在に気付いていないようだけど、この学校で金髪に金目は目立つ。
存在バレたらヤヴァい………。
………つか。
「不審者ってもしかしてあいつら………?」
丁度第3校舎から走ってきてるし。
「こら!!早くグラウンドに避難しろ!!」
人混みに飲まれないように教室の入り口に立っていた私を怒鳴り付ける先生。
「はい……」
仕方なく人混みに入り込み、流される。
このままグラウンドに直行。
……………と、見せ掛けて。
「よいしょっと」
どさくさに紛れて隣の空き教室に入り込む。
戸を閉めて近くの机に腰掛けた。(良い子は真似しないでね)
皆が廊下からいなくなるのを待つ。
エドと大佐もこれだけ人がいたら渡り廊下からこちらの校舎の廊下に入っては来ないだろう。
すれ違いになることはないと思う。
2〜3分後、ようやく教室の外に人の声がしなくなった。
皆行ったかな………?
『カラカラカラ・ ・ ・ 』
教室の外から、どこかの戸を開ける音がした。
続いて2人分の足音。
エド達かな?
『ガラガラガラッ』
「大佐!エドっ……………!!」
『ゴッチーン』
思わずうずくまる私。
「いっっってぇ………」
同じように 頭を押さえてうずくまったのは、エドだった。
何があったのかというと、私が教室の戸を開けて顔を出した瞬間エドの頭と衝突したのだ。
「いひゃい……………。」
「大丈夫か2人とも……」
「大丈夫ぢゃなひ……。」
「いっててて………。……………っつか!?何でここに!?」
「何でってここ私の学校だし。」
頭をさすりながら立ち上がる。
「そうじゃなくて、さっき中にいた奴が外に出ていってただろ?何でお前は残ってるんだ?」
「いや、渡り廊下にチミらの姿が見えたから。」
不審者の正体がチミらだったら困るし。
「先刻の騒ぎは何だったんだ?」
大佐が私に尋ねた。
そっか、渡り廊下は外に面してるから放送が聞こえないんだ。
「校内に不審者が侵入したらしいから避難してたの。」
「えっ………」
何ですかその反応は。
やっぱしおめーらか。
「………その不審者ってもしかして大佐とエド?」
「いや、中に入った所は学校の者には見られていないはずだが……」
「奴らのことじゃねーのか?刃物持ってたし」
……………。
……奴ら?
もしや……………
「……奴らって?」
恐る恐る聞いてみると。
「買い物の時とかに追ってきた奴だよ」
ひいいぃ!!!
やっぱりそうきたか!!!
なぜに私の行くとこ行くとこついてくるんだ変態!!!
………って、やっぱりエドやら大佐やらがいるからなのか?
勘弁してよ………。
「すまない、随分迷惑がかかってしまったようだな」
「あ、いえっ!大丈夫ですよ!!だって丁度暇だったし」
「暇………?」
「いやー、そのー………」
しまった。
うっかり暇だなどとぬかしてしまった。
仮にも授業中だったっつの。
「ところで渡り廊下にいた間よくあの変態に追い付かれなかったわね。何で?あいつら3校舎にいたんでしょ?」
「戸に鍵をかけておいたからな」
「あー、なるほど」
言い終えるが早いか、聞こえてきたのは。
「……なんかパトカーのサイレンが………?」
刃物持った不審者が侵入したら警察も呼ばれるか。
「早くここから逃げない?奴らと一緒にエドと大佐まで捕まっちゃうよ」
「ああ……」
………ところが。
『ドガッ!!!』
あー、なんか景気良く戸が蹴倒されてるー………。
あれって渡り廊下に続く戸だよね?
……って、待テ。
なんかぞろぞろとムサい男どもが廊下に入って来るんですけど。
あ、3校舎に続くドアも壊されてる。
鍵かけてたからってドア全部蹴倒してきたんか。不躾な。
「追ってきた………。」
「しつこいな」
「勘弁してよー……………。」
20人強の男達は、皆手に手に武器を携えている。
そりゃ110番も押されるわ……。
もう頭痛しそう……。
「み〜つ〜け〜た〜ぞ〜!!かかれ!!!」
男の内の1人が叫び、一斉に走ってくる。
『パンッ!』
エドがオートメイルを刃に変えて戦い始めた。
大佐も 音のない焔で変態達をどんどん焼いていく。
ていうかこんな技知らない。
新技?火事にならないように気をつけてほしいが。
あー、これならすぐに終わりそう。
………だと、思ったんだけどなぁ。
「うぁっ!!」
軸足を蹴られ、床に叩きつけられるエド。
何だか異様に強いのが1人だけ残ってる。
他の男はもう倒れて気絶しちゃってるんだけど、その1人だけは無傷で立っていた。
「君、逃げろ」
大佐が低く告げた。
「えっ、あ……」
突然言われてもどうしたらいいもんか。
向こうに逃げればいいのかな?
エドと大佐が2人で戦っているさなかに、私はくるりと後ろへ方向転換。
ダッシュしようと右足を出したその直後。
「ッ!!!」
エドが叫ぶ。
何事かと振り向いた。
頬を何かが掠め通る。
大佐が私の体を少々右に押してくれたからよかったものの、そのままだったら顔面直撃だったぞ。
……で、今掠めていったのは何?
見てみると、それはナイフだったり。
私の頬から血が一筋流れた。
「 ―――――っ!!!!!!」
恐くて声にならねぇ。
待テ、顔面に直撃してたらどうなってたんだよ。
ブッ刺さってたよ!!!
イヤああぁー!!
「大丈夫か!?」
「にゃふ………」
微妙な返事を返してしまった。
だって言葉になんないよ。
「すまん!避けちまった!」
エドが私に向かって言った。
ってことはエドが避けちゃったのが私の方に来た、と?
この野郎。
後で……後で………後で抱きついてやるうぅv(何故)
「ハッ!!!」
敵は掛け声をかけ、ナイフを乱投する。
「くっ!」
『キィン!ギキィッ!!ギンッ!!』
エドがオートメイルで弾き返す。
その間に大佐が指を何度か鳴らす。
焔が男に向かって吹き付けた。
が、軽い身のこなしで全てかわされてしまう。
男がかわす間にエドが男に接近、切り付けるものの、それすらかわされてしまった。
……って、観戦してる場合じゃねぇよ。
逃げないと。
ああぁ頬がジンジンするよ、痛いなぁ。
さっさと逃げなきゃ傷だらけになるかもしんない。
―――が。
「シキミ様が戦っているぞ!我々も加勢だー!!!」
「オー!!」
何でこうなる。
くそう。
私が逃げようとしていた方から敵が5〜6人走ってくる。
まだいたのか。
シキミ様ってのはエド達と戦っているあの細身の男のことかな?
細身って言ってもハガレンに出てくる敵ほどムサくないってくらいで多少筋肉質ではあるんだけど。
「君、さがっていたまえ」
大佐は私の前に立ち、
『パキン!』
指を鳴らした。
「ぎゃああぁ!!」
続いて焔を連射し、新手をいとも簡単に片付けてしまった。
さすが大佐。
強ぇ。
が、私は見てしまった。
大佐が今背を向けている敵、シキミがナイフをこちらに向けて投げるのを。
雨の如く大量に放たれたそれをエドは払い落としきれず、その内の1本のナイフがこちらに飛んできた。
簡単なことだった。
無意識に体が動いただけ。
誰かが死ぬのは、もう……………………
「大佐!!!!!!!」
エドが叫ぶのが、遠くに聞こえた。
大佐が振り向く前に、私は飛んでくるナイフに向けて両腕を広げていた。
「………?」
数秒後、きつく閉じていた両目を開く。
痛みはない。
「あ………れ……?」
なぜ?
よく見ると、床には血が滴っていた。
……私の血ではなく、大佐の血だった。
「た……っ!!たいっ……」
言葉にならなかった。
「大丈夫だ。傷は浅い」
大佐の左腕から血が流れ、肘からそれが一滴一滴と落ちているのだった。
浅いのかどうか、服に隠れてよく分からない。
それが恐くて仕方がない。
もし自分のせいで大佐が大怪我を負ってしまったのだとしたら、それがもとで どうにかなってしまったら。
私は………また繰り返していることになる。
「……君?」
「たい、さ………」
恐い。
震えが止まらない。
「?」
ちらりと振り返り、エドが心配気な声で呼んだ。
「………その女は…」
聞き覚えのない声。
シキミか?
「が何だ」
エドが言い返す。
「………いや、それならこちらは退かせてもらう」
「?」
そう言って、シキミは窓から飛び降りた。
2階なのだが大丈夫なのだろうか。
「………逃げやがった」
窓の下を見下ろし、エドが呟く。
人の声が近付いている。
恐らく警察だろう。
「まずい、逃げよう」
「君、走れるか?」
「……………」
言葉が、紡げなかった。
「大佐、来るぞ!!」
「仕方がない」
大佐は私を抱えあげ、階段を下り始める。
エドもそれに続いた。
***
「大佐、もう大丈夫だから降ろして下さい」
校舎から出た後、私はようやく復活した。
「グラウンドに行かないと。点呼とられてるだろうし。いなかったらヤバいんで」
「…そうか」
こんな情況じゃなかったらお姫さま抱っこに萌えてたんだろーけどなぁ。
んもぅ大佐ったらち・か・ら・も・ちv
「じゃ、行くね」
「……君」
「はい?」
「少々気になる事があるのだが……」
「何でしょう?」
「ナイフが君に刺さりそうになった直前…ナイフの軌道がずれて刃先が心臓に向いた。あれは投げ方で変わる程度ではなかったのだが、その事について何か知らないか?」
「え?いいえ…」
「そうか………」
そして私はグラウンドに向けて走りだした。
「警察に見つからない内に逃げてね!!第3校舎の方にはいっぱいいるだろうから気をつけて!」
振り向きざまに、そう叫んで。
あの後、ちょっとばかしヤヴァかった。
やっぱり点呼はとられてて、私はその時いなかった。
『最初からいた』とごまかしたものの、どこまで信じてくれたのか。
……ま、済んだことだからいいでしょう。
大して傷ないし。(頬のみ)
その後すぐに下校になった。
で、家に帰ったんだけど、2人もさっき帰ったばっかりみたいで。
ま、そりゃそうか。
私と別れてからそんなに時間おいてないからね。
それで今はケガの手当て中。
アルに今日あったことを説明した後。
「はい、消毒しますよ」
消毒液片手に確認をとる。
「うむ」
傷は大佐が言っていた通りそんなに深くなかった。
服を厚着してたおかげかな?
ていうか寧ろ今はそれどころじゃなくて、
萌えていた。
だってさぁ、だってさぁ、ケガしたのは左上腕だよ?
今現在大佐は上半身脱いでるんですよっ!!
もぅ激萌え!!!
引き締まった肉体がv
もうもう………は・な・血・出・るv(出すな)
『シュッ』
「うっ……」
消毒する際の痛みに、ぴくんと動く大佐。
うああああぁぁどうしよう萌えるどころか血ィ吐きそうです!!!(何故)
こんな大佐を色っぽいと考えてしまう私はバカですか?(その通りだ)
手当てをして、包帯を巻く。
「ありがとう」
「いえいえ、私こそ萌え……いや、何でもないです」
萌えさせて頂いてどうも、なんて言えねぇよ。
「大佐、どう思う?」
「何がだね?」
「あの敵の事だ。のことを気にかけてやがった」
「君の事を?」
「ああ。名前を聞いたら退きやがった」
「ふむ……」
服を着ながら考える大佐。
ちなみに暖房がきいているので寒くはない。
「さんは何か知らないの?」
アルが尋ねてきた。
「いや、分かんない。どうしてだろう……」
「ナイフが軌道を変えたことと何か関係があるかもしれねえな」
エドが言った。
「え……?」
「奴はそっちにナイフが向かってから考え込むような素振りをしてたんだ。その間に変わったことといったらそれしかねえ」
「うーん……。でもそれで逃げたのは何でだろうね?」
「そこまではわかんねぇよ」
「そーだよねー……」
しばし考え、
「ま、いっか」
「へ?」
「だって考えても分かんないじゃん。シキミって奴はどうせまた来るだろうし、その内何か分かるでしょ」
「……」
おや、なぜにそこで溜め息をつく。
「楽天的なやつ……。」
「う、うるさいなぁ!いいじゃん!!」
「さん落ち着いて……」
そしてしばらくエドとの口喧嘩が続く………。
「例の物を持つ者でした」
男は、椅子に座った人物に告げた。
「間違いないか?」
「はい。しかし『奴』はすでに死んでいるようで、持っているのは『奴』の娘でした」
「そうか………」
椅子に座ったその人物は、口角を上げた。
「………ようやく、見付けたか」
〜To be continued〜
<アトガキ。>
あぁ、色々秘密を残して終わってますね。
オリジナル要素たっぷり!(コラ)
いいのかなぁ・・・。
ま、それは置いておいてもちょっと気になるのが警察。
学校中にぞろぞろいてもいいですよね、あれだけのことがあったら。
なのにあの3人見つからずに最後移動してたし。やり方がずさんだよ、警察。
……はい、ごめんなさい。幻作の書き方が悪いんですね。
でも逃がさないとドリ主の家にあの2人がいなくなっちまう。
お色気担当がいなくなるのはイヤぢゃー!!!(ぇ)
お色気って言えば最後の「手当てシーン」は楽しかったです。
この話書いてて一番ペンが進んだ。(をい)
この回、ようやく本当の意味で敵が動き始めますね。
ドリ主は一体何なのか。見付けたって何なんだ。
しかも椅子に座ってた人偉そうだ。(だから何)
………まぁ、楽しみにしててください。
近い内にわかる……はずです。
それではこの辺で失礼。
2005.1.17