あれからあの部屋であった事を説明した。

 その時エドに聞いたことによると、お父さんが元の世界に戻るための研究ともう1つ並行してやっていた研究は何の研究だか分からなかったみたい。
 元の世界に戻るための研究だっていうのは記号とか錬成陣の組み方で分かったんだけど、もう1つの方は字ばっかりだったとか。

 別に読む気が失せたとかじゃなくて、お父さんは癖字の天才なのだ。
 要するに、字がヘタすぎて読めなかったのである。
 ていうかその研究では走り書きが多かったのだとか。

 まぁ、それはいいとしても心残りが1つ。


 大佐のエプロン姿が見れなかった………!!


 くそう。
 見たかったなぁ。

 で、そんなこんなで3連休の3日目も何となく過ぎていって、今日は学校に行く日。
 やだなぁ、めんどくさい。
 でも一応受験生だし。今11月だし、最後の追い上げって奴?
 行かなきゃなあ………。






stigmata・06
忘れ物・前編
〜crisis〜






 早々に朝食を摂り、重そうなカバンを背負って、は家を出た。
 今現在家にいるのは、エドワード、アルフォンス、ロイの3人。
 そして彼らは今………

「あー……………暇だ。」

 激暇だった。

「向こうの世界では考えられない程暇だな」
「……………」
「……………」

 ………訂正。
 彼は暇だった。
 一方 後の2人はというと。

「この錬成陣の紋章からして属性は―――」
「時々入ってるこの図って―――」
 例の『隠し部屋』から持ってきた本を熟読中。

「……やることがないというのも寂しいものだな……。」
 1人呟く大佐。
 そんな時、ある1冊の本が彼の目に留まった。

「………ん?」
 その本の表紙はどこかで見たことがあった。
「これは……」
 テーブルに置いてあるその本は、自分には読めない文字で埋まっていた。

「確か君が学校に行く間際まで読んでいた……」
 教科書だと言っていた気がするのだが。
 忘れ物か?

「………」

 ロイは しばし何事か考え、
「鋼の」
「あぁ?」

 何かを決めた。

「私はこれから出掛ける」
「どこにだよ」
君の所へ。」
「……………。」

 エドワード、一瞬固まりました。

「なっ、何しに行くんだよ!?」
「忘れ物を届けに行くだけだ。なに、君が家を出てからそう時間は経っていない。すぐに追い付くさ」
「大佐、よっぽど暇なんだね………。」
 普段そんなことをわざわざする人じゃないのに、と付け加えた。

「まぁ、そんな訳で行ってくる。留守番を頼めるかね?」
(ごまかしたな………。)

「行ってらっしゃい。昼までには帰ってきて下さいね」
「俺ら昼飯作れねぇから」

 どうやらロイは調理係に位置付けられているらしい。

「君達私を何だと………。料理は面倒だからあまりやりたくないのだが…。まぁ、昼には帰れると思う」
 そしてロイは一旦自分の部屋に戻り、上着を羽織って家を出た。
 これで今現在家にいるのは2人。

「……………んー…」
「どうしたの?兄さん。さっきから落ち着かないみたいだけど」
「いやな……どーも嫌な予感がすんだよ。なんかこう……胸騒ぎみたいな」
「何だろう?」
「んー……………。」
 何かが引っ掛かる。
 気のせいか?

「兄さんとさんが買い物にいった時もこんな感じで静かだったけどね……」
「んー……。―――……って、それだ!!!
「えっ、な、何?」
 突然叫ばれて驚いた弟。

と買い物にいった時 俺は“奴ら”にいきなり襲われたんだ」
「え!?それ初耳!大丈夫だったの!?」
「帰ってきた時ケガも何にもなかっただろ?」
「あ、そっか。……それで何なのさ?」
「……店まで追ってくるっつーことは、だ。」
「……………もしかして…」
「ああ、多分奴らは大佐の所に行くだろうな。なんせターゲットは俺ら3人だ。全員殺らなきゃなんねぇ。けど向こうの世界では中々それは難しかった。それならまず…」
「1人になったところを叩く、だね」
「………ああ」
「でもまぁ、」
 再び本に視線を戻すアル。

「大佐なら大丈夫でしょ」
「………そうだな」
 エドも本に視線を落と……………そうとしたのだが。

「………ん?」
「今度は何?兄さん」

 何かが自分の視界に引っ掛かった。

「いや、テーブルの上になんか……」
 白いものが、と言おうとして。

「………なぁアル。あれ、どっかで見たよな……」
「……………出来れば気付きたくなかったね……」

 そう、それはどこかで見たことのあるもの。
 よく知った人物が身に付けていたもの。
 身に付けていたというか、はめていたもの。
 ……つーか、どこをどう見ても。

「あんのバカ大佐ー!!!」

 発火布の手袋だった。






「―――ったく、何で俺が………。」
 ぶつぶつと文句を言いながら出掛ける準備を始めるエドワード。

「仕方ないでしょ?この手袋がないと大佐戦えないんだから」
 はい、と上着を差し出すアルフォンス。
 それを受け取りながら、エドワードはぷぅっと頬を膨らませる。

「まだ本読み始めたばっかなのに……。アルが行けよ!!」
「無理だよ。僕鎧だし……騒ぎになったらさんにまで迷惑がかかっちゃうかもしれないし」
「……………」
 紋章の入ったロイの手袋を上着のポケットに突っ込み、玄関に向かう。

「…行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
 ドアを開けようとして、

「……………なぁ、アル」
「何?」

「………大佐と、どっちに行った?」






「あ〜あ……。めんどくさい」
 私は 今日で何度目になるのかも忘れるほどの溜め息を、再びついた。

「そだね、連休明けだと余計面倒だし」
 隣にいるのは、私の友達の浅葱 流美。
「ぜんっぜん覚えてないや……。次の授業なのに」
「私はさっきだった」

 私と流美は別のクラス。
 でも教室が隣同士だから休み時間ごとに会いにきてくれる。
 ………いや、私は動くのが面倒だから向こうのクラスには行かない。(ぇ)
 すれ違ったりしても困るし。

「もっかい読み直しとこうかな……」
 2時間目は国語の授業。
 何があるのかというと、暗記のテストがあったりする。

 それは至ってシンプルなもので、教科書の文章を暗記して先生の前で言う、という感じだ。
 暗記力には自信があったのだが、甘かった。
 なんと10ページも暗記しなければならないのである。
 しかもこの前授業があってから今日までの間……つまり4日間の間に覚えろ、とのこと。

 はっきり言って無理だろ。
 先生、私らを睡眠不足で殺す気ですか。

 大体覚えたからもしかすると大丈夫かもしれないけど、まだ不安は残っている。
 机の引き出しを漁って教科書をひっぱり出………


 ・・・・・・・・・・・・・・。


「なっ……」
「ん?」

「教科書がないぃぃぃぃぃ!!!」

 思わず叫ぶ私。
 隣で流美が「びっくりしたぁ」とか言ってるけど、今はムシムシ。(酷)
 だってないんだもん!!
 これじゃあテストどころか忘れ物で減点される!!!
 ヤヴァい。困った。

 ………はっ!
 もしや朝ご飯食べた時読んでてそのまま置き忘れ……………。

「うわあぁぁもうだめだあぁぁぁー………。」
、大丈夫?なんか頭いっちゃってるよ」
「うるせええぇぇぇー………。」
 と、その時。

『ピーンポーンパーンポーン♪』

 何だよ、放送か。
 今はショックでそれどころじゃ……………

『3年7組さん、3年7組さん、至急正面玄関に来てください』

 ……………。
 エ?

、なんか呼ばれてるよ?」
「わ、わだす何か致ずまずだでしょうが?」
何弁だかわかんないよそれ。…ついて行こっか?」
「………お願いしましゅ………。」

 何か怒られるようなことしたっけ?
 ……いや、怒られるんだったら職員室だよね。
 じゃあ何だ………?

 急いで正面玄関に向かう私達だった。





 正面玄関は、私達のクラスがある校舎の一番奥。
 私のクラスは2階で、正面玄関は階段を降りてちょっと行くとある。
 職員室の前を通り過ぎて、印刷室の前を通り過ぎて、保健室の前を通り過ぎて…。

 正面玄関にようやく辿り着いた。

「………ん?」
 誰かいる。
 正面玄関って来客の人とかが入ってくるとこだよね。
 ていうかどう見ても先生じゃないっしょ、あの格好は。
 ラフだし。
 ……………って、

いっ……………」
 ………さ。

 ヤヤ、ヤベェ。
 流美は大のハガレンファンなんだってば。
 そんな奴に大佐だとバレてみろ。
 抱き締められてほっぺちゅーされた挙げ句サインとか握手とか求められるぞ。(ぇ)
 つーかハガレンファンなんてこの学校には溢れるほどいるっつの。
 騒ぎを聞き付けて女子の波が押し寄せるぞ。

 てか、なぜに大佐が学校にいる。

「どうしたの?
「いや、なんでもない。先に教室帰ってて……」
「???」
 不思議そうな顔をする我が友。
 ごめんよ、まだ大佐を殺すわけにゃいかんのだ………。(何)

「大佐………」
 流美が教室に帰ったのを見計らい、大佐に駆け寄る。
 ちなみに今は周りに誰もいない。

「おお、君」
「おおじゃなくって、何でここに?」
「これを忘れていっただろう」
「……え?」
 差し出された一冊の本を見、

「ああぁ!!国語の教科書!!」
 思わず叫ぶ。

「テーブルの上にあった」
「やっぱりあの時忘れたんだ……。って、大佐その為だけにここへ?」
「暇だったしな。」

 あぁ、神様大佐を暇にさせててくれてありがとう………。
 これでテストは大丈夫……………かも。

「ありがとうございます。遠かったでしょう?」
「まぁ…」
「どうやって来たんですか?道知らない筈なのに」
「人に聞いた。しかし君が出てからすぐに追ったのだが、道を尋ねる度に女性に声をかけられてな。少々時間をくった」

 この野郎。
 どんだけ声かけられたら2時間目ぎりぎりに辿り着くんだ。

 ……まぁ、美形だしなぁ。
 声かけられても仕方ないのかも。
 サラサラの黒髪に切れ長の瞳ですよ。
 しかもちょいと色白。
 身長も高いし。
 芸能界に行けそうだよね。
 ……テレビには出てるけどさ。
 てか、そんな人と同居してる私って……………もしかしてめっちゃラッキー!!?
 うわぁいv

「……君」
「ひゃい?」
「行かなくていいのかね?」
「へ?」

『………ーンコーンカーンコーン……………』
 チャイムだ。

やべえぇ!!大佐、ありがとうございましたあぁぁ!!!」
 ダッシュで教室に駈けていく私。
 手を振って見送る大佐。

 あぁ、なんか理科の先生に声かけられてる………。
 逆ナンかな。
 先生が逆ナンしていいのかよ。
 そういえば放送で呼ばれたのって大佐が来たからなのか。

 階段を猛スピードでかけ上がる。
 何とか先生が着く前に教室に生還できた私だった。



君も忙しいようだな……」
 理科教師からの夕食の誘いを丁重に断り、1つ溜め息をつくロイ。

「……さて、私も帰るとするか。やることは何もないのだが……」
 くるりと踵を返す。
 ………と。

「み〜つ〜け〜た〜」
「ん?」
 正面玄関の外に出ると、何やら人影が。

「殺れ!!」
「!!」
 サングラスに黒コートの集団。
 ………奴らか。
「こんな所にまで………。」

 ここで騒ぎを起こされると色々と後で面倒なことになりそうだ。
 第一ここには子供が多い。
 万が一巻き込まれでもしたら。

「えぇい、ここは一気に……、……………………………。………。!」

 両手のひらを見る。
 ………ない。
 発火布の手袋が、ない。
 しまった、置いてきたか。

「チッ!!」
 大佐の地位も伊達ではない。肉弾戦も出来る。
 ……が、50人近くが一斉攻撃してくるこの状態で、学校の者に気付かれず事を終わらせるのは難しい。

「何とかいけるか、……微妙だな………」
 強面ばかりの男共を見ながら、呟いた。

「かかれ!!」
 誰ともなく言い、大佐は身構えた。
―――その時。

「あっれー?もしかしてグッドタイミングってやつかな?」
 聞き覚えのある声が。

「鋼の!」
「よっ」

 ………しかし。

「……………どこだ?」
 姿が見えない。

ここだッ!!!それくらい分かれよ無能!!!」
 叫ぶと同時に男が数人薙ぎ倒された。

 どうやら男の影に隠れてしまって見えなかったらしい。
 続いて男を張り倒しながらこっちに向かってくる。

「よそ見してる暇はあるのか?」
 声と共に ナックルのついた拳がうなりを上げて迫ってきた。

『ガッ!』

 鈍い音が耳に届く。

「ぐっ……」
 どさり、と地面に倒れこむ。
「バカめ。」
「大佐!」
 ようやくエドワードが大佐の元へ辿り着いた時、

「大佐の地位は別に伊達や粋狂で掲げていた訳ではない」

 かなりゴツい男が、大佐の足元に1人転がっていた。
 しかも腹部を押さえながら。
 どうやら返り討ちにあったらしい。

「いいもん持ってきたぜ」
「ん?」
 ポケットをごそごそと漁るエドワード。
 そしてその中から出てきたのは。
「ほい」
「!」
 発火布の手袋。

「助かった。礼を言う」
「貸し2つな」
 にっと笑うエドワード。

「2つ?」
「ここに来るの大変だったんだよ!!場所知らなかったし。そこらの人に聞いたら大体答えてくれたからそれを辿って来た」
 大佐が来た道を知ってる奴全部だったけどな、と付け足しつつ後ろにいた男を蹴り倒すエドワード。
 ロイは手袋をはめ、中指と親指の先を合わせた。

「あ!!あんまり派手にやらかすなよ!この世界では錬金術を使える奴は1人もいねえらしいからな!!」
「そうか」
 あまりやり過ぎると肉弾戦を見られる以上に大騒ぎになってしまうな。
 恐らく爆発音だけでも大事に発展してしまうだろう。
 ならば……、

『パキン!!』
 指を鳴らす。

「ぎゃああぁ!!」
 男達に吹き付ける業火。
 爆発させずに炎を大きくすれば問題ない。

「鋼の、うまく避けろ」
「お?」

『パキン!パキン!パキン!パキン!』
 連続発火。

『ゴウッ!!!』
 広範囲にわたって炎を噴射させる。

「うおっ!!!?」
 とっさに大佐の後ろに転がり込むエドワード。
 コンマ数秒遅れていたら丸焦げだった。

「いきなり何すんだ!!俺まで焼けたらどうする!!!」
「避けられない方が悪い。」
「ぬにぃ!?」
「口論している暇はないだろう。残りが来るぞ」
「ぐっ……」

 炎がおさまり、10人前後が倒れた。
 その10人を盾にして炎を防いでいた残りの男達が、一斉に駈けてくる。
 残りは20人強といったところか。
 ……………と。


「何をしている!?」


 遠くの方から誰かが叫んだ。

「まずい、誰か来たか!?」
「うわ、気付かれた!」
 これだけドタバタやっていれば誰かが気付くかもしれないと危惧していたが、やはり来てしまった。
 いくら正当防衛とはいえ男10人を丸焦げにしていては色々と聞かれることも多くなるだろう。
 斯くなる上は………………

「一旦退くぞ、鋼の」
「お、おう!」

 校門のある方は さっき来た誰かがいるため通れない。
 反対側に行くか。

「待て!!!」
 叫ぶ男達+α。
 追ってくるのは男達だけで充分だというのに、「+α」まで走ってくる。
 ……教員だろうか。

 角を曲がり、隠れる場所を探す。
 しかし、見えるのは左側にフェンス、右側に校舎、前方には突き当たりに花壇。
 困ったことに隠れる場所が全くない。
 ……それならば。

「………鋼の」
「あ?」
「中に逃げるぞ」
 視線で右を示す。

「しゃーねーな………」
 辺りに誰もいないことを確認し、エドワードは両手を勢い良く合わせた。

『バチィッ!!』

 校舎に両手をついた瞬間、閃光が視界を白に染めた。
 数秒もしない内に光はおさまり、校舎の壁には壁と同色の扉が出来上がっていた。

「待てー!!!」

「やっべ、来た!」
「早く行くとしよう」
 素早く扉を開けて中に滑り込み、閉めた。
 ちなみにこの扉、壁と同色な為 ぱっと見には見分けがつかない。
 へたに壁に戻して錬成反応でここにいることがバレるよりはこのまま放っておいて逃げた方がいいだろう。

「大佐、どっちに行くんだ?」
「ん?」
 見てみると、道は2つに分かれていた。
 1つは右にある昇り階段。
 もう1つは前方にのびる廊下。
 ……否。

「考える余地はなさそうだ」
「ああ」

 前方からは早くも敵が数人迫ってきていた。
 距離にして50メートルといったところか。
 別の入り口を見付けたのだろう。

「のぼるぞ!」
「言われなくとも!」

 ダッシュで登る2人。

 二階に辿り着き、廊下を駆け抜ける。
 ―――ところが。

「うおっ!」
 足を止めざるを得なくなる。

「くくく……」
 前方から敵が数人現れたからだ。
 後ろを振り返ると、そちらにも数人。
「挟まれたか………」

「観念しろ!もう逃げ場はないぞ」
 じりじりと寄ってくる男達。
「くそ………!!」
「万事休すか………」
 両手を挙げる。

「最初からそうやってればよかったんだよ」
 男がナイフを取り出し、

「だああぁ!!」
 切り掛かった。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

中途半端な所で終わりました第6話。
長いので切りました。
元がワードで打ったものなんで、長いのです。
さてさんの知らない所で大変なことになっていますよ。

・・・それにしても11月・・・。
白状すると、これ書いたの11月なんです…。
いや、しかも2003年。随分タイムラグが・・・
読みにくくてごめんなさい。

では、また後編兼第7話で。

2005.1.10
2005.1.12 加筆修正