あれから夕飯をみんなにご馳走した。
アルはやっぱり食べなかったけど、あとの2人はよく食べてくれて嬉しかったり。
メニューはアルとエドに聞いた中で 短時間でできるものを選んで作ったんだけど、エドは好物のシチューを食べられなくて不満だったみたい。
ごめんね。
シチューは長時間コトコト煮込んだ方がおいしいからさ。
今度作るよ。
お風呂タイムの前に説明をした。
だって向こうの人って湯槽に浸かる風習ないんじゃ?
……説明をしたところ、それは大当たりだったり。
かなり驚いてましたよ、3人とも。
パジャマは着てくれませんでした………。
大佐は無理だけどエドにだったら私のが入ったのに。
あぁ、見たかったなパジャマ姿……。
アル以外の全員が入浴した後、3人の寝室を決めるために 空き部屋を巡ってみる事にしました。
懐中電灯を持って、準備万端。
私達4人は、リビングのドアを開けた。
暗い廊下を、窓から差す月明かりが照らす。
懐中電灯を点けて部屋を出た。
……………暗いなぁ。
この暗さはやっぱり変わらない。
暗いのが恐い訳ではないけれど、闇はひたすら過去を思い出させる。
恐くはないけれど………嫌いだ。
stigmata・03
灯りを燈して。
〜appreciate〜
「どこら辺がいい?リビングとかダイニングに近い部屋の方がいいよね。便利だし」
「そうだね」
秋も終わりに近いので、かなり寒い。
そろそろスリッパも冬用に替えないと、足が冷たくなる。
冷え性だしなぁ、私。
「アルは俺と一緒の部屋でいいよな」
「うん」
一緒がいいんじゃないのかい?
言いそうになったが、そこはぐっとこらえて。(おい)
「部屋はいっぱい余ってるから一人一部屋でもいいんだけど?」
「や、いつも一緒の部屋だからアルがいないと落ち着かねーんだ」
「あぁ、成程。わかったわ」
そりゃ四六時中一緒にいる弟が離れたら不安にもなるわな。
「部屋は2階にあるの。こっちに来て」
真っすぐに進み、みんなを誘導する。
程なくして右側に表玄関が見えた。
裏口から入ってきたからこの3人は見たの初めてなんじゃあ?
表玄関を見ずに入ってきた客ってどうよ…?
右側に玄関、そして左側には2階へと続く階段。
暗くて上の方は見えない。
懐中電灯で照らしながらのぼる。
「天井が高ぇと段数も多いな」
「めんどくさいでしょ」
部屋に戻る度に思っていた事である。
「それはどうでもいいんだけどよ……、お前 こんな広い所に一人で寂しくなかったのか?」
「冗談言わないでよ。私が寂しがるようなタマに見える?」
笑い飛ばしてさっさと進む。
階段を上り終え、立ち止まって全員上り終わるのを待つ。
「どれがいい?」
全員が上り終わったのを確認し、正面一帯を視線で示す。
「どれって……」
暗闇にまだ目が慣れきっておらず、正面の壁も見えない。
私は慣れ過ぎていてはっきりとどこに何があるのか覚えてしまっていた。
懐中電灯で正面を右から左に照らしていく。
「この3つの部屋の内どれ選んでもいいよ」
そう、正面にあるものとは、3つのドアだった。
「この幅で部屋3つって…1つの部屋相当広くねぇか?」
「そうね。まあまあ」
「これでまあまあなんだ………。」
呆れているのか感心しているのか。
多分前者だと思うけど。
「あ、まだこっちに行ったら2つ程あるよ?」
後ろを指差す。
勿論そっちは階段なのだが、示した位置が高いので 後ろの壁を挟んだ向こう側の廊下に面する部屋のことを言っているのだと気付く一同。
「2つ?3つじゃなく?」
大佐が尋ねる。
ここと対になっていると分かったからだろう。
「3つの内1つは私が使ってますから。あとの2つは空いてるんですけど」
「ほう………」
……………………。
何?
何なの?今の「ほう」は。
「大佐、部屋の隣は駄目だぞ」
「!」
あ、今びくってした。
図星?
ていうか何で私の隣?
「な、何を言っているんだね鋼の。私は別に……」
焦ってる焦ってる。
「あ、俺らはここの一番右端でいいや」
大佐を無視って私に言うエド。
いいのかそれで。
上の人として。
「うん、分かった」
取り敢えず返事を返しておく。
「大佐は?」
エド、なんか睨んでる?
「………鋼のの隣で………。」
心なしか残念そうである。
何で?
「あ、1つの部屋にベッド一つしかないんだけど、どうする?別の部屋から運ぼっか」
定期的に掃除はしてあるから埃は被ってないけど。
「あ、今日はいいよ。明日にしよ?」
アルが答えた。
……それはアルが“寝ない”から?
冷えても風邪をひくことすらできないから?
「………やだ。今日運ぶ」
こうなると意地でも運びたくなってくる私である。
「えぇ?何で?」
「何でもよ」
空いている 一番左端の部屋に歩いていく。
………だめだ、夜はやっぱり昼ほどポジティブじゃないや。
なんかこう、テンションが落ちるっていうか。
変だよね、今。
目的の部屋に辿り着き、ドアを開ける。
空の棚、日によって茶けた白のカーテン、冷たいフローリング。
死後 父が名残を惜しむ事無く さっさと片付けてしまった、祖父の部屋だった。
「あのベッドか?」
「!!」
別に驚くようなことではなかったのだが、後ろから肩に手を置かれて 軽く心臓が跳ねた。
「………?どうかしたか?」
「う、ううん。何でもないの」
色々と考えすぎている。
今はみんながいるんだから、そんなことだと疑われてしまう。
ただでさえこの人たち頭いいんだから。
やばいっスよ。
「さ、運ぼっか」
窓際に置いてある白いベッドに歩み寄る。
***
アルや大佐の力を借りて、取り敢えずベッドの搬入完了。
……え?
エドはどうしたのかって?
……………持ち上げる人の身長が高すぎて自分の背と合わなかったのですよ。
ほら、持ち上げやすい位置ってあるでしょ?
それよりちょっと上の位置だと持ち上げにくいのよね。
「ふぃーっ、終わった終わった」
重かった……。
シンプルなベッドなのだが、やはり重い。
「どうする?もう寝る?」
「そうだね。やることもないし……」
「あーあ、こんなことなら図書館から借りた本持ってればよかった」
「大量の本を持ちながら戦いは無理だったんじゃない?そうでなくても兄さん苦戦してたのに」
「うるせーや」
「………………」
あれ?
大佐が黙ってる。
おーい、どうしたよ?
「……仕事を全くやらなくていい日は久しぶりだ………」
少々感動している大佐。
よっぽどキツかったんだな………。
ホークアイ中尉もしっかりした人だし、きっと膨大な量の仕事をキッチリと期限内にやらせていたのだろう。
「でも多分これから暫らくそうですよ?」
帰る方法が見つからない限り。
「……………その間、仕事は溜まりっぱなしなのか?」
「…………………………。」
あ、石化した。
「は、早く元の世界に戻る方法見付けましょうね」
アルがフォロー(?)する。
が、あまり効き目はなかったようだった。
「はぁ………。」
一変して落ち込む大佐。
「だめじゃん、エド!大佐を落ち込ませちゃ!!」
「事実を言っただけだろ」
「もう!」
これだから科学者って奴は。(何か関係あるのか)
「大佐、大丈夫ですよ。きっと誰かがやっててくれてますって」
「だといいのだがな。あのメンツじゃ期待できそうもない」
「………。」
大佐の部下の面々を思い出す。
………確かに、他人の仕事を代わってやろうという善人はあまり…っていうか、まずいなかったと思う。
「まぁ、考えていても仕方がない。今は忘れていよう」
立ち直り早っ!
でもその位じゃないと軍なんてやってられないのかも。
大佐っていう地位にいるだけで批判されてるみたいだし。
「じゃ、寝ましょうか」
「おやすみ、さん」
「オヤスミー」
「おやすみ」
そんな訳で、みんなそれぞれ部屋に入っていったのだった。
……あまり眠そうではなかったが。
そりゃ 暗いとはいえまだ10時前後だしなぁ。
私だってまだ眠くない。
でもやることないし。
………勉強はやりたくないっス………。(をい)
自分の部屋は このフロアの中心にある 中庭を囲った壁を挟んでアルとエドの部屋の向かいにある。
懐中電灯で廊下を照らしつつ、自分の部屋に向かった。
部屋に入ってドアを閉める。
電気を点けずにそのままベッドに倒れこんだ。
“冗談言わないでよ。私が寂しがるようなタマに見える?”
………嘘。
本当は寂しかった。
誰もいない家はだだっ広いだけで、一人だということを必要以上に主張する。
恐くない。
恐くはないけど嫌。
“お母さんは…2年前に、病気で。”
………嘘。
本当は……………………、
青いシーツをぎゅっと握り締め、首を振る。
……思い出したくない。
思い出したくないのに、フラッシュのように瞬間的に、しかし鮮明に頭の中で点々と甦る、記憶。
暗い暗い夜に。
私は。
……………私は。
「………痛……」
左胸を、ぎゅっと押さえる。
「どうかしたのかね?」
「…………………。」
ドアらへんから突如聞こえてきた声に、思わず石化する。
「たっ、たたた大佐!!?」
月明かりに薄ぼんやりと照らしだされた輪郭。
びっくりした。
まぢでびっくりした。
「や。ノックもしたのだが、聞こえなかったか?」
聞こえませんでした、ってか本当にノックしたの?
「な、何か用が?」
「ああ。少々聞きたいことがあってな」
聞きたいこと?
こっちの世界について、とか?
「君は こっちの世界や我々について最初から知っていたのではないかね?」
「!!!!!」
思わずがばりと起き上がる。
バ、バレてた!?
何で!!?
「ポーカーフェイスがあまりうまくないな。嘘はついていないにしろ、隠し事をしているのがバレバレだ。」
………。
初めっからバレてたってことかい?
大佐の地位は伊達ではなかった。
「ここら辺の地理を鋼のが聞いたとき、君は少々迷ってから地図を取り出した。地名を言えばいいのに、だ。
それは地図を見せた方が早いということを初めから分かっていたからなのだろう?」
「えっと………;」
ばれないようにやったことが裏目に出ちゃっていました…。
「あとは鋼のが兄だと聞いても驚かなかったからな。」
それかよ!!
「あの………結果的に騙すことになっちゃってすいません……」
「いや、私はそれを咎めるために来たわけではない。それなら全員が集まっている時に言っていた」
優しく 宥めるように言う大佐。
「何か訳があるのだろう。別に言わなくていい」
「大佐……」
ごめんなさい、言えません。
また一人になるのが恐くて、言えません。
お願いだから、私を一人にしないで……。
「………ごめんなさい」
ああ、今が夜で助かった。
月明かりがあるにしても、逆光で私の顔は見えないだろうから。
声にも出してないから、多分大丈夫。
………だと、思ってた。
「……泣かなくていい」
ふわり、としゃがんで。
ベッドに座っている私を抱き締めた。
「大…佐……」
人の温もり。
暖かさ。
求めていたもの。
学校なんかでは、手に入らないもの。
今の私では、手の届かなかったもの。
……本当に、この人は………。
どこまで、私の心を見透かしているんだろう………。
「大佐、エドとアルにはこの部屋であったこと 言わないでほしいんですけど………」
一応私が悪い。
一歩引いて話を持ち掛ける。
「ああ。そのつもりだ」
言って、腕の力を緩めた。
「私はもう行こう。部屋にいないことが知れるのも時間の問題だ。鋼のにバレたら何を言われるか分からんからな」
私から離れ、ドアに向かって歩いていく大佐。
「あ……」
できるなら、私が眠るまでいてほしかった。
せめて今日だけでも。
「寂しくなったら私の所に来い」
………。
再びバレちゃいました。
静かに部屋から出ていった大佐を、まるでまだ見ているかのように、私はドアの方に視線を向けていた。
温もりが、まだこの体に残っている。
「………………大佐…」
………ありがとう。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
ぬるいシリアスやってしまいました、ハガレンなドリです。
大佐とカップル化か?とかお思いのお方、すいません。
ドリ主さんは別に恋心は抱いてません。
……まだ、ね。(え?)
これからエドとかアルとかにも絡みいれていきますんで、そっちのファンの方はお楽しみに。
………というか、実はこの話、最初は入れるはずじゃなかったんです。
けど、大佐が一般人の嘘を見抜けないはずがないですね。
次の話を書いてて気付いたんです。
で、急遽この話を入れることに。(本当はこの次の話が第3話になるはずだった)
もっと短いかと思ってたんですが、予想外に長かった。
大佐との絡みが入って楽しかったでぃす。
ドリ主さんの過去、今回多少入りましたね。
その内わかる……………かも?この話は入れる時あるのか?
……まぁ、その内ということで。(いつだよ)
それでは、次の話をお楽しみに。
2003.11.24