「……はぁ…」
 ようやく全授業が終わって家路につく。

 あー……家まで遠いんだよねぇ。
 チャリ通でもないから 片道40分の道のりを今から とぼとぼと歩いていかなきゃなんない。
 もう慣れたけど。
 …ていうかむしろいつも悩むのは、

「今日は何考えながら帰ろーかな……」

 そう、何を頭の中で繰り広げるか、である。

 40分もあると学校であったことを思い返すにも限界がある。
 途中で考えるネタがなくなってしまうのだ。
 一緒に帰る人もいないし(帰る方角が違う)。

「……あ」
 ハガレンの妄想でもしておこうか、と思っていたその時。

「すごーい」
 思わず感嘆する。
 今日は朝から雨が降っていて、大降りになったと思えば小雨になる、そしてまた大降りになっては小雨に……を繰り返していた。

 そんな天候のせいか、空には綺麗な半円状の虹がかかっていた。
 それにもかかわらず空は晴れていて、澄んだ青色で。
 登校中、私はその虹に…いや、空に見惚れていた。

 それが何なのかって。
 実は、今現在雨が止んでアスファルトの地面がほとんど乾ききっている状態にも関わらず、何と朝かかっていた虹が同じ方にまだあったのだ。

「何でだろう……」

 近付けばくぐれてしまえそうな半円の虹。

 その虹を私…… は、見上げていた。






stigmata・01
虹の欠片を
〜discover〜






「あれっ!?」
 見上げながら歩き始めて約数十秒。(危)
 視線の先にある虹が、左端からどんどん消えていく。

「ちょっと何で?」
 別に応えがあるとは思っちゃいないが、長年の妄想癖の所為で 独り言は一般人より多くなっていた。

 っていうか、そんなことをしている間にも秒を追うごとに 虹は消えていく。
 段々全体的に薄くなっていく、というのが今まで見てきた中で最も普通の消え方だと思っていた……っつーか それ以外の消え方なんて聞いたこともない。

 変じゃないのか?
 この唐突としか言いようのない消え方は。

「……って、あれ……?」

 右端の少しだけを残して、虹の消失は止まった。
 残された虹は、何だか虹色の柱のようである。

「今日は何か変だよ……」
 放課後まで虹が残ってたり、突然消失したり。
 他の人は気付いているのだろうか。

 ……………。
 そうだ、ここってば あんまり通る人いないんだっけ……。
 他の人の表情を伺おうにも 誰もいないんじゃ仕方がない。

「………それにしても自然現象って何でも有りなんだねぇ………」
 ありえないことは殆どないって聞くけどさ。
 ……じゃ、これもあり得ることなのかしら。

「虹に近付けてる………?」
 先刻の虹の欠片が、近付くにつれて大きくなっていっていることに気付いた。

 進行方向上 虹を正面に見ながら進んでいたのだが、その虹が建物のごとく近付いたら大きくなっていく。
 普通 虹には近付くことも出来なければ遠ざかることもできないはずなのだが。

 自然の神秘………?
 ………っていうか。

「もしかしてもしかしなくても……私ってば虹の根元に行けるわけ!!?
 虹の根元に行くことが出来たら願いが叶うって言うし、行ってみたかったんだよね。
 何となくそんなドリーム抱いてました。(いやマジで)

「らっきぃ♪」
 歩調を早めて虹へと急ぐ。

 あと100メートル位で虹の根元に到達!!
 ………と、その時。


 ズドオオオォォン!!!


「みぎゃあああぁぁ!!?」

 ド派手な音と共に 雷発生。
 丁度虹の根元辺りに落ちた。
 鼓膜が破れるかと思った……。

 いやしかし、ちょっと待て。
 この晴天に落雷?
 何なんだ、今日の天気は。

 ………ま、それはいいとして。(いいんかい)

 今は虹。
 幸いまだ消えてない……って、

「ああぁ!!消えかかってるうぅ!!!」
 さっき消えていった左部分と同じように、残った欠片も消えていく。

「待って、まだ根元に辿り着いてないっ……!!」
 待って、待って、待ってっ………!!!

 重いカバンが背中で暴れるのも無視して、全速力で走る。

 消える前に。
 どうか、消える前に。
 辿り着かせて……………!!


 そして辿り着いたその先には、後数秒で消えてしまうだろう虹の欠片と、落雷の跡と……それから。


「…………………」


 思わず絶句した。
 落雷の跡の中心部に、人がいたのだ。
 ……しかも。

「………何か見覚えがある格好………」

 アスファルトの上に倒れている、3人。
 金髪赤服の、ちっちゃい子。
 全身金属の、でっかい子。
 黒髪軍服の、男の人。

「………………」
 今日はこの近くでコ○ケでもやってるんですか?
 待て待て、この近くにそんなんができる場所はねぇって。
 ………ってか、

「気絶してる……?」

 まさかこんな道のど真ん中で昼寝してるわけでもあるまいし。
 気絶してる人って初めて見た。

 …どうしよう。
 救急車とか呼んだ方が……?
 取り敢えずそれには症状知っとかなきゃなんないし、近付いてみることにした。

 ………あぁ、ハガレンコスだよ。
 ファンかな。
 仲間がいて嬉しいよ。

 それにしても身長の差とかマンガのままだよ。
 すごいなぁ、ここまでキレイに金髪に染めちゃって。
 あー、アルの鎧もリアルだ…。
 軍服も自然な感じだなぁ。

 なんか全然違和感ないよ。
 顔も整ってるしね〜。


 ………。
 外傷はあんましないみたいだね。
 内蔵は大丈夫かな………?
 なんせ さっきの大落雷の中にいたんだから。

 …って、それにしては怪我がないよね。
 普通死んでてもおかしくないのに。
 金髪をじっと眺めて考えていた、その時。


『ガショッ』
 金属音が。


「にょげえぇっ!!!?」
 そっちの方を見てみると、例の鎧が体を起こしていた。

「うーん………。」
 別に驚くこともないと思うけど、その格好でいきなし動いたら誰でもびっくりする。

「ビ、ビビビビビった………。」
 中身はあるんだってば。
 コスなんだし。

「ここは………?」
 きょろきょろと辺りを見回す鎧。
 何だかマンガに出てきそうなセリフである。
 私がそれに答えようとした、が。


ドゴオオオォン!!!


 声以上に大きな音で、掻き消された。

「なっ、何……?」
 500メートル程向こうだろう。
 雷が落ちた。
 …ここに落ちたのと同じくらいの大きさの落雷。

「雷……?」

 うわぁ、かわいい声。
 アルそっくり。
 変声機かな?
 凝ってるなぁ。

「丁度あなたたちがいたところにも落ちたんですよ、雷」
「え………?」
 その時のことを覚えていないらしい。

「……あ、兄さん!兄さん、大丈夫!?」
 金髪少年を揺する鎧。
 演技付き?凄いなぁ。

 …が、金髪少年は一向に起きる気配を見せない。
 ちなみに黒髪軍人も同じく。

「救急車呼んだ方がいいですかねぇ」
 鎧に向けて言う。
 ……が。

「キュウキュウシャ?」

 疑問符付けて返されてしまいました。
 そこまで演技しなくてもいいだろうに。
 緊急時ですよ?

「あのですねぇ……」
 言い掛けて。

「見付けたぞー!!」
 再度遮られました。

 全くもう、最後まで言わせろよこの野郎。
 ……って、見付けた?

「わっ、追ってきた!!」
 ……追ってきた?

 鎧の視線の先を見てみると、何やら黒コートにサングラスいかにも怪しい団体がこっちに向かって走ってくる。
うわ、変質者だ!!!

「うーんっ……」
 黒髪軍人を抱え上げようとしている鎧。
 どうやら連れて逃げるつもりらしい。

 が、なかなか持ち上がらない。
 意識を失った人を持ち上げるのはかなり大変である。
 更に成人男性だ。
 難易度上昇。

「……いしょっと」
 ようやく肩に担いで立ち上がる鎧。
 なかなかに力が強いらしい。
 しかし金髪少年の方を持ち上げるのは無理っぽい。

「あ、私が連れていきましょうか?」
「えっ?大丈夫なの?」
「はい、結構力はあるつもりなんで」

 ………とはいったものの、さすがにお姫さまだっこは無理である。
 背負っていたカバンを前から腕に通し、代わりに金髪少年を背負う。

「危ないから、早く!!」
「あ、はいっ」

 危ないとはどういうことだろう?
 まぁ、確かにあんな集団に追い付かれたら色んな意味で危ないと思うけど。

 鎧と並んで走りだす私。
 後ろの変質者が追ってくる。
 ……更に。

『ガンッ!!ガンッ!!』
 なっ、なんだ!?
 何かコンクリの上で跳ねたぞ!!?
 走りながら振り返ってみると。


 …………………。


 見間違い?
 見間違いだよねぇ?

『チュイン!ガンッ!!』
「いっ、いゃああぁぁあ!!」

 銃だ!
 ピストルだ!!
「銃刀法違反だあああぁぁー!!!!!」

 頭真っ白にしつつ爆走していると、鎧が再び「ジュウトウホウイハン?」などと小首傾げながら疑問符付けて返してきた。
 答えてる暇ねぇよ!!

「あんたマフィアとなにやらかした訳ですかぁ〜!!?」
 日本語が変なのは 最早気付けなかった。

「マ、マフィア!?違う違う!!あれはねぇ!!」
『ドズッ!!チュイン!ドガッ!!!』

 鎧の言葉遮って響く銃声。
 警察早くこーいッ!!!!!
 ………と。

「……君、降ろしてくれないか」
 何か近くでダンディーな声が。

 見てみると、黒髪軍服が鎧をコンコンと叩いていた。
 ……起きたんだ、ロイコス。

「大丈夫ですか?大佐」
 止まって黒髪軍服を降ろす鎧。
 つられて私も止まる。

「ああ、なんともない」
 黒髪軍服がそう応え、鎧がほっとため息をついた。

 こんなに悠長なことをしてていいのだろうか。
 銃声も止んでいないというのに。

 ……焦っていたのも束の間。
 黒髪軍服が右手をパチンと鳴らした瞬間、


チュドンッ!!!


 変質者の団体の方で爆炎が巻き起こる。
 何か団体さんが悲鳴上げてるー……。

 ………って、ちょっと待テ。

「なっ、なぜに爆発!!?」
 昔の戦争の爪痕(地雷)か?

 いやそんなアホな。
 だったら立入禁止くらいにはなってるはずだっつの。
 ていうか戦争が起きたのは何年前の話だ。

「あぁ、あれはね?発火布っていう特殊な布で出来てる手袋で、強く擦ると火花が散るんだって―――」


 …………………………。
 何ですと?


 丁寧な説明も 後の方反対側の耳から抜けちゃいました。

 いくら何でもそんな。
 ンなモンがこの世にあるはずがない。
 ていうかコスプレにそこまでかける奴がいるか?

 ………認めるのか?
 ついに認めちまうのか?
 これは現実だぞ?

 背負ってる金髪少年の右袖を少しだけまくる。
 ……………機械鎧(オートメイル)だ………。

 どう見ても手袋とかじゃない。
 完っ璧な 金属の義手だ。

 認めるしか、ないってのか………。
 ええぃ、こうなったら認めてやる!!
 分かったよ、何が何だかよくわからんが、脳内結論出してやろーじゃん。


 こいつら、マンガの中のキャラそのものだ。


 多分ありがちだけどあの雷でこっちの世界に来ちゃったんだ。
 もう そう思っとくしかない。
 現実逃避とも言う。

 ようやく結論が出た瞬間、耳に入ったヤバ気な音。


 ……………パトカーのサイレンだ……。


「ぎゃああぁ!!警察来たぁ!!」

 変質者どもは捕まってもいいとして、私はそんなのゴメンである。
 アルとかエドとかロイも連行されるのは私的に絶対嫌。
 だってせっかく会えた訳だし。(ぇ)

 事情聴取なんぞされようもんならロイの犯行バレバレである。
 ……錬金術使ったってのは信用されないにしても、犯人にはされるはずだ。
 変質者の証言で。

 ………ん?
 考えりゃ あいつら銃持ってたじゃん。
 うまく行けば全部あいつらのせいになるってこともあり得るかも………。
 それはさておき。

「早く逃げるわよっ」
「えぇ?何で?」
「事情聴取なんかされたら後々面倒なのよ」

 言って さっさと走りだす私。
 最早タメ口になっているのも気にならない。

 大通りに出たら不利だ。
 なるべく細い道を通ろう。
 走っていく私達。
 目指している場所は、私の家。



〜To be continued〜






<アトガキ。>

いやぁ、遂に始めてしまいました、ハガレン夢。
楽しくて仕方ないですよ。
制作時間5時間。最短。
次はどうなるのか。
…微妙だなぁ…(何が)
んでは、また次回で。